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韓国大統領選挙に見る「排除と抑圧」の台頭【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」54

 

◆現状破壊の行き着く果て

 「対立勢力との和解はありえないし、望ましくもないのだから、相手の存在を排除するしかない」という発想そのものは、多くの韓国人に共有されている可能性が高い。

 現に「共に民主党」はユン政権発足いらい、閣僚などにたいする弾劾案を乱発する戦術を取ってきました。

 その数、三年間で30回。

 「法律を悪用した政治暴力」「(非常戒厳に)劣らず深刻な国憲紊乱(こっけんびんらん=憲法秩序を乱すこと)行為と批判されるとおり、こちらもこちらで対立相手を排除したがっている次第。

 

 ユンが非常戒厳を宣言したのにも、この戦術への対抗措置という意味合いがありました。

 ただし戒厳はそれ自体、「対立勢力を排除するためなら、現状を破壊して権威主義的な独裁をやってもいい」とする含みを持つ。

 物事に収拾をつけるためなら、民主主義とて否定すると構えたのです。

 分断が激化しないはずがない!

 

 戒厳騒ぎのあと、「国民の力」と「共に民主党」の支持率がそろって上がったのも、こう考えれば必然の帰結。

 ほかならぬ大統領から、とことんやりあうお墨付きをもらったようなものです。

 事実、「国民の力」の大統領候補キム・ムンスは、最後までユン・ソンニョルを支持した人物。

 2025年はじめ、韓国ではユン大統領の支持率と、ユン大統領への弾劾賛成が(異なる世論調査の結果とはいえ)同時に50%を超えましたが、これも「非常戒厳には賛成できないが、対立勢力を徹底的に排除しようとする姿勢には共感できる」ということではないでしょうか。

 

 関連して注目すべきデータがあります。

 韓国のシンクタンク「東アジア研究院」が20253月に発表した「政治の二極化に関する意識調査」によると、「現在の韓国は民主主義的ではない」と答えた者は32.7%。

 「状況次第では民主主義より独裁のほうが良い」と答えた者も16.2%にのぼりました。

 さらに「民主主義でも独裁でも構わない」という回答が8.8%。

 

 合計すると25%、つまり4人に1人は独裁容認なのです。

 「国民の力」支持者の場合、容認派は38.6%に達しました。

 無党派では32.5%、「共に民主党」支持者でも9.3%がそう答えています。

 党名に「民主」が謳われていようとこの始末。

 イ・ジェミョン候補の当選も、「民主主義の勝利」とは呼べないのかも知れません。

 

 「原状回復のための現状破壊」は、対立勢力の排除を正当化したあげく独裁容認へと行き着くのです!

 そして物事が「何でもあり」と化して収拾つかなくなっているのは、現在の世界全体に見られる状況。

 2025年、われわれは「排除と抑圧」の時代を迎えるのではないでしょうか?

 続きは次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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